高橋 一眞・公式ウェブサイト
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口笛を吹く楽しさって?



他人から見た、自分というのは、いったい「何者」なんだろう?

普段は気にとめることもありませんが

雑誌の紙面に、自分のことが掲載されるとなると

大変に興味深い反面、若干の不安感も付随してしまうものです。

そこには「評価の目」というものも付いてまわるからです。

しかし、その「評価の目」は冷たく攻撃的なものばかりとは限りません。

善意や暖かさ、激励や期待、共感や愛、があふれている場合があります。

客観的な「他人の目」というのは、

ときには自らも知らなかった一面を気付かせてくれる場合もあります。

また、自分のイメージにピッタリはまる表現で紹介してくださったときなどは

大変にうれしいものです。

以下にご紹介いたしますのは、2001年に掲載された雑誌記事です。

口笛の素晴らしさを、充分に汲み取って頂いた記事です。

皆さんにも、口笛の楽しさを汲み取っていただけるはずです。

音楽と同様に、文章にしても「素敵な表現との出会い」

というのは、そのまま心豊かな人生につながってゆくような気がします。



年金と生活の情報誌「ゆたか」より
                                             記事 : 渡辺 裕之さん
 なぜ口笛を吹くと、人は、孤独を意識するのか

今や国民的ロックバンドになったサザンオールスターズのべーシスト、

関口和之さんが最近発表したソロアルバムのタイトルは『口笛とウクレレ』。

その名の通りに口笛とウクレレで演奏された音楽が入っているCDです
(口笛は俳優の竹中直人さんが吹いています)。

そんなこともあり、お調子者の私は、今年は口笛ブームが来るぞ、

などと仲間に吹聴したりしているわけですが、そのアルバムに関口さんのこんな文章が載っていました。

「口笛を吹くと、どこからかもう一人の白分が現れる。白分なのかどうか確信はもてないから、もしかしたら誰かなのかもしれない。かといってぜんぜん知らない人でもない。そいつはやけに冷ややかに遠くを見つめたまま、俺の手を引いて言うんだ。『お前は一人なんだよ』って。ああ、そうだった、忘れるとこだったよ、とふと思う。気が付くとそいつの影は俺にぴったりと重なって、いつのまにか俺白身になつている」


口笛が醸し出すあるムードをいい当てている文章ですね。

そう、人は口笛を吹くと、何となく孤独というものを意識します。

映画でもヒーローが淋しく立ち去る背中に、口笛入りの音楽が流れてくる場面があるではないですか。

さて、今回は「なぜ口笛を吹くと、孤独を意識するのか」という大テーマをもって、

定年後、口笛演奏家として大活躍している方にお話を聞くというもの。その人の名は高橘一眞さん(61歳)。

高僑さんの口笛を実際に聞くと、びつくりするはず。

私たちが何気なく吹くものとは格段の差。

音色は美しく、音域の幅も広く、

そして一番驚いたのは、息をついているところがほとんど聞こえず、一定の音色がずっと続くこと。

「これは吹くときだけでなく、息を吸うときにも同じ音が出るように訓練しているからですよ」


と教えてくださる高橋さんの口調はその口笛の音色のように情感たっぷり。

とてもやわらかな物腰で説得力のある語をする方です。

その言葉に耳を傾けながら口笛の魅力に迫ってみましょう。



鳥のように口笛を一人で吹き続けてきた

「私が口笛を始めたきっかけは子ども時代の遊びにあるんです」

そう語る高橋さんは子ども時代を千葉県の養老渓谷で過ごしています。

緑豊かな土地に美しい川が流れる田舎で、高橋少年は「遊んで遊んで遊びつくした毎日でした」といいます。

「夏に川で水遊びをした時に、川底に潜って、魚がどこにいるか見ておくんです。

そして釣りの季節になったらフナ、コイ、ヤマベ、そしてウナギを釣ります。

山に行けば山芋掘りに栗拾い、そして小鳥とりをするんです」



その小鳥とりは、鳥モチを仕掛けてメジロやウグイスをとるというもの。

鳥に気づかれないように鳥モチを枝に入念に塗り、そのかたわらに囮(おとり)の鳥をカゴに人れて置きます。

「鳥は白分の鳴き声によってテリトリー(なわばり一を作ります。そして白分のテリトリーで鳴く他の鳥がいると、牽制(けんせい)するためやってくるんです。その習性を利用した仕掛けなのですが、時々、鳴かない囮がいるんですよ。そういう時はしょうがないので白分で鳴かなければいけない(笑)。口笛でメジロやウグイスの真似をするわけです」


そうしているとだんだん上手になつて、口笛を吹けば鳥がすっとやってくるまでになってきました。

「ですから、口笛を始めたきっかけは、私の場合は音楽ではなく、遊びがきっかけです。つまり鳥が私の口笛の先生なのです」


この話を聞いて思ったことは、

「なぜ口笛を吹くと、孤独を意識するのか」ということ。

この答えは、「口笛が鳥たちの唄と似ているから」ということではないでしょうか。

鳥が鳴き声によって自分のテリトリーを作るように、

人も口笛を吹くことによって自分だけの空間を作るのです。

そして、ささやかなテリトリーができあがった時、

人は快い孤独というものを意識するのではないでしょうか。

実際、高橋さんは大人になり、とても忙しい仕事の世界に身を置くことになりますが、

そうした中で白分の世界を守るように、口笛を吹くことを続けていたといいます。

高校時代に父親を亡くした高僑さん一は苦学して大学を卒業。

アメリカと日本の合弁会社である商社で働きます。

映写機を扱う仕事をし、忙しい日々を送りますが、その会杜が倒産。

その後は社員研修を行う会社に入社し、その講師となります。

「精神的にも肉体的にも大変な時もありました。しかし、そんな時も、終電で帰ってきた駅から家までの道を口笛を吹きながら歩きました。すると、疲れがとれてしまうんですよ」


口笛が作るテリトリーが高橋さんを守ってきたのでしょうか。

そんなふうに続けてきた高橋さんの口笛の世界に転機が訪れます。

今から10年前、仕事関係の付き合いでいったバーでカラオケが始まった時のことでした。

みんなと同じように唄うのも芸がないということで、高僑さんは口笛を披露したのです。

「すると、その店の人がものすごく感激してくれたんです。これは人に聞かせたほうがいいとまでいってくれたんですよ。それを聞いて私のほうもその気になってしまった。豚もおだてられれば木に登るという奴ですね(笑)」


人前で口笛を演奏するようになったのです。

となると練習をしだす。すると上手になってきますし、もっと人にも聞かせたくなってくる。

「そんな時に、指笛をする方に出会ったのです。その人の紹介で、演奏会に出演させてもらうようになったんです。これが第二の転機ですね。それから人間関係も広がり、演奏会にも呼ばれることが多くなってきました」


口笛演奏家の誕生です。

新たな世界が展開し始めたのです。




 今は生徒に口笛を教え夢は口篭合唱団結成

現在、高橋さんは口笛演奏家として舞台に立つ他、カルチャーセンターで□笛を教える教室ももっています。

教室では、どんなふうに教えているのでしょうか。

「普通の楽器だったら、ある模範の音があって、その音が山せるように練習をしますが、口笛は違います。口笛はその人がもっている音色を生かして、その人が納得がいく音が出るように練習をします」


実際に高橋さんの生徒さんの口笛をそれぞれ聞かせてもらったのですが、

それぞれ楽しくなるくらい音色が違うのです。

みなさんも知り合いの方に口笛を吹いてもらって聞いてみてください。

歌声が違うように異なるはず。

あたりまえといえばそうなのですが、人それぞれ違う口筒を実際に聞き分けてみると、

その人の個性が感じられたりして、なかなか味わい深いものですよ。

「それぞれの口笛の音の持ち味を生かして白分の心で唄えるようになってくれればなと願って教えています。それができたら、口笛がほんとうの心の友になるんですね」


という高僑さんの夢は、口笛合唱団。

「一人で吹くのも楽しいけれども、みんなで吹くのもとても素晴らしいんですよ。10人くらいを目標に、少しずつ人を集めていきたいなと思っています」

白分のための口笛が、人前で演奏する経験を経て、相手の個性を育てるものとなり、

そして今度は多くの人と演奏する口笛になろうとしています。

鳥を先生にして口笛を習った高橘さんが今、生徒たちに教えています。

鳥のように自分の世界を守ること、そして鳥のように群れて遊ぶ楽しさを。




                                  第88号 年金と生活の情報誌「ゆたか」
                                        2001年2月号
                                        発行 竃@研
                                        発行人 佐藤 政男
                                        編集人 山田 喜代志




記事を書いて下さった 渡辺 裕之さんの言われた「口笛ブーム」は

この記事が掲載されてから、6年後の現在になって到来しました。

口笛という音楽をご存じなかった皆さんにとっては、

「口笛ブーム」というのは、突然降って沸いたような

“流行のひとつ”、との印象をもたれる方も多いかと思いますが、

ライターの渡辺さんのように、

口笛というものに真摯な姿勢で接して下さった方々がおられたからこそ

口笛という音楽が脚光を浴びるようになったはずです。

そして2007年・・・、現在

口笛という音楽シーンは一変しています。

しかし、「口笛の楽しさ」という本質は変わりません。

<音楽の基本>、というより、

それが<口笛吹きの基本>というものなのかも知れません。

                    
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